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鬼と月と赤い砂漠12

鬼と月と赤い砂漠12

二ば毬を

 こ鬼とジャックの椅子と


 こ鬼は自分の足元の黒い雲の道にそって、

かけだしました。

 そのたびににもつをせおったようにからだ

もこころもおもく、おもくなっていくのです。

 フグリのことはかんがえないでおこう。

 そうおもっても頭のなかにぽつんぽつんと浮

かぶのはフグリのことばかりでした。

 「もう会えないや。どんなにがんばっても、

フグリのところにはいけないんだから。だか

らこのままぼくは進むんだ」

 こ鬼はそういうと、足をひきずるようにし

て前にすすみました。

 キャラバンをみるんだ。

 月あかりにてらされたらくだにのるんだ。

 にんげんにあうんだ。

 フグリじゃなくても、きっとたくさんとも

だちはできる。

 こ鬼は少し疲れて砂漠のなかでじっとすわ

りこむと月をみました。

 あたり前ですが、どこまでいっても同じ砂

ばかり、それらがきらきらとて、月あかり

のもとでこ鬼のこころが迷うほどにきらきら

と輝きだしているような気さえしました。

 「お月さま」
 
 こ鬼はそうつぶやきました。

 すると、

 「鬼よ、こ鬼よどこへいくんだい。どこも

ここからいけるところなどありゃしないよ。

もどりなさい。もどりなさい」

 いつのまにか、となりにふくろうがこしを

かけていました。こしをかけるといっても砂

ばかりです。

 そうです。ふくろうは砂でできた椅子にこ

しをかけていました。

 いつのまに、こんなところに椅子ができた

のでしょう。

 こ鬼はまじまじとおどろいて声もでません

でした。

 そして、さきほどのできごとできぶんがす

こししずんでいるのです。

 ふくろうはふくろうであって、ふくろうで

はなくやっぱりふくろうなのでした。

 からだはにんげんのようで背がひょろりと

たかく、足もぼうのように細く長く、背広の

ようなものをきています。首はながくまっし

ろで、そして、顔だけがふくろうなのです。

くちばしももちろんついていますし、くりく

りとした目んたまもついています。

 だからやっぱり彼はふくろうというべきで

しょう。

 ポケットにはこじゃれたサングラスとまっ

しろいはんかちをさしています。

 「こ鬼さん、どこへいくんだい」

 こ鬼はいぶかしげにふくろうをみました。

 「君はぼくがしっているふくろうじゃない。

ふくろう男だ」

 ふくろう男は
 
 「ジャックだ」

 そう渋い声でいうと、灰色のポケットから

白い紙をさしだしました。

 「名刺だ。やるよ。ジャックだと書いてあ

るだろう」

 「ぼく、字がまだはっきりよめません」

 「いいよ。やるよ。もってきなよ」

 ふくろうは、ごういんに白い紙をこ鬼に手

わたすと、白い紙は真っ黒ににじみはじめま

した。そのあと、赤いつきがじんわりとうかび

あがりました、そして最後に、月だけがぱり

んとはずれて、くるくるまわりだすと、ジャ

ックという文字が空中にうかびました。

 「なんだい。これ、おもしろいねえ」

 「おもしろいけど、いっかいだけだよ。そ

れがそんなおもしろいことになるのは」

 ジャックはそういうと、砂の椅子からたち

雪のような真っ白い羽根を広げました。椅子

はさざあっと形をくずしました。

 「白い羽根だ。ジャック。きれいだね。ジ

ャックさんはここのひとなの。ぼく、きっと、

これはゆめだとおもって、だって、ぼくフグ

リというともだちがいるんだ。チイサナムラ

サキの花のオオイヌフグリなんだけど。

 それが、いつもとちがって、ともだちがい

つもとちがうなんてへんだよね」

 ジャックはねむたそうにおおきなあくびを

すると、澄みきった凍りつくような瞳でこ鬼

にいいました。

 「ここからさきは、おまえがいってもたの

しいことなどありゃしないよ。もどりなさい」

 そしてとても静かにつづけました。「砂漠

のむこうはただの砂嵐さ。おおきな真っ赤な

つきがかたむいて、月の足の下になんでもない

すなつぶが海のように広がっているだけだよ」

「なんにもないんだぜ」ジャックはもういち

どそういいました。

 「ジャックさん。ぼくは、あの砂漠のむこ

うがわを少しだけみたことがあるんだよ」

 蜃気楼がゆらゆらしていて、

 ぼくが憧れていた人間の世界があったんだ。

たしかにみたもの、ぼく。きょうはきりぎり

すがいないから、わからなかもしれないけ

ど、白いもやのむこうにたくさんのたくさん

のきりぎりすたちがいて、

 ぼくをさそった。むこうにいこうって。

 ぼくはおとうさんに絵本でよんでもらった

こともあるんだ。

 にんげんたちもおなじで、泣いたり、わら

ったり、けんかしたり、好きな子ができたり

するんだよ。

 だから、おもう。ぼくは鬼だけど、だけど

にんげんの子供たちとはともだちになれる

って」

 こ鬼は真っ赤な腕をふりあげました。

 腕は真っ白い霧のような空気のなかで燃え

るようにただ輝きました。

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-29 15:12

童話 月と鬼と赤い砂漠11

鬼と月と赤い砂漠11

二ば毬を

「ふううあああああ」

 こ鬼はあやうく、びっくりしておっこちそ
 
 うになりました。

 「熱気球船だ。はじめて乗った」

 こ鬼はこれが夢なのかどうなのか考えるこ

 ともなく、熱気球船の火がゆっくりとしぼん

 でいき、うつくしく模様がえがかれた砂地に

 着地しました。
 
 こ鬼は強い風邪にふきたおされて船がかたむ

きぼてっととびでると、声をあげずにとびだ

しました。ふしぎとこわいかんじはありませ

んでした。ただ、美しいばかりでこ鬼は

ようやくようやく肺の奥から声をあげると

「やったあ、きっときっときのうの場

所だ」とたけびました。

 まありをぐるっとみまわすと、きりぎりす

たちはどうやらいませんでした。

 そして、きのうの白いもやのなかとはすこ

しちがって、雨や雷さまをかかえたような黒

い雲が、こ鬼のあしもとからがらがら蛇のよ

うなへんなもようになってはてのはてまで連

なっているのです。

 黒い雲はごろごろとあまえた猫のようにう

なっていました。

 こ鬼はあしで雲をけとばしながらどんどん

と進んで行きました。


 すこし歩くと、こんどはいつも鬼が遊びに

やってくるフグリの野原がみえてきました。

 「フグリの野原だ」

 こ鬼はかけだしました。

 そこでちいさなお花がいつもどおりに咲

いていましたが、おそらからは静かに青い石

のようなしらあっとした雪の子がふってきて

いました。

 だからでしょうか。ちいさなお花はいつも

どおりのようにいて、ひどく冷たいかんじが

したのです。

 こ鬼はフグリをさがしました。

 フグリはぽつんとなにもしゃべらないほか

のお花たちのまんなかで、ぐうぐうと眠って

のお花たちのまんなかで、ぐうぐうと眠って

いました。

 「フグリ、フグリ、起きてよ。ぼくだよ。

こ鬼だよ。フグリ、フグリ。ぼくたち、ひょ

っとしてにんげんの国にいけるかもしれない

んだ」

 フグリはねぼけまなこで目を半分あけると

あふうとあくびをしました。そして、こ鬼に

きびしい口調でこういいました。

 「いってはだめ。いってはだめ。にんげん

のすむところはあなたが行く場所ではないわ。

だって、あなたはじぶんがどんなすがたがみ

たことがあるの。

 なんてみにくい顔かしら。

 なんておそろしい顔かしら。

 火のような燃える髪は、にんげんの森をや

きつくして、そのおおきなてのひらはきっと

大蛇でも握りつぶしてしまいそう。

 ライオンでも恐ろしがるような、するどく

ひかる冷たい目」

 こ鬼はそれをきくと胸がはちきれないばか

りにどきどきして、ぼろぼろとなみだがこみ

あげてきました。そして、知らないうちにち

いさなお花たちをおおきなてのひらでけちら

していたのです。

 「フグリ、フグリ、ひどいよ。ひどいよ。

どうして、きょうはそんなことをいうの。い

つもはそんなことはいわないよ。フグリはい

つも、にこにこわらっていてくれて」

 こ鬼はそこまでいうとすすり泣きました。

 フグリはぺしゃんこになっていました。

 ほかのちいさなお花たちもこ鬼がけちらし

て、そこらじゅうに葉っぱや花のかけらがち

らばっていました。

 フグリはかけた顔でこ鬼をみました。

 「でも、きっとにんげんならそういうわ。

 なかよくできるものなら、とっくになかよ

 くしているはずよ」

そしてフグリはにこにこといつもりおりわ

らいました。

「みんな、あなたがやったのよ」

けちらしたちいさなお花たちは、何も口を

ききません。いつもどおりなのです。

雨がぽつぽつとふってきました。

フグリはもういちどいいました。

「いかないで。きっときずつくわ」

フグリもこ鬼もびしゃぬれです。かけた顔

には雨がふりそそいでいます。

その雨で砂漠には少しのみずがとおったの

でした。

こ鬼はおそろしくておそろしくて逃げるよ

うに先をいそいだのです。こ鬼が逃げても野

原はいつものようでだまったままでした。

つづく

 
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by junko-oo1 | 2006-12-27 16:16

鬼と月と赤い砂漠10

鬼と月と赤い砂漠10

こ鬼、ちいさな夜と子守歌

 ほぅほぅ。ほぅほぅ。

 こ鬼の家の庭にふくろうがやってきている

ようです。ふくろうはおおきな茶色のつばさ

でばさりと、おおいかぶさるように土におり

ました。こ鬼のみみがびくりとすると、ちゅ

うちゅうきいきいというさけびごえがきこえ

ました。

 こ鬼とフグリがはじめてけんかをした、お

おきな夜がやってきたのです。こ鬼は夜ごは

んを、いつもよりげんきよくさんばいもおか

わりしました。

 木の梢が窓をたたいて、まどべがかたかた

となっています。

 こ鬼はまたもや、みみをびくりとしました。

 よるの風がやってきているのでしょう。

 おやすみのじかんは、とんとんとかけあし

でやってきました。こ鬼はそのあいだ、にん

げんがでてくる絵本をなんどもよみかえして

いました。

 やがて、おかあさんとおとうさんがやって

きて、こ鬼の部屋でごうごうともえるおにゆ

りの花のかたちをしたランプをふきけすと、

こ鬼のベッドのそばのちいさなたんぽぽのか

たちをしたランプに火をともしました。

 「ぼうや、きょうもフグリちゃんのところ

にいっていたの」

 こ鬼はねむったふりをしました。鬼のおか

あさんは、「あら、もうねむっているわ」

おとうさんにいいながら「つかれているんだ

よきっと」そんな声がきこえました。鬼のお

かあさんはお布団をこ鬼のかたがしっかりか

くれるようにかぶせると、こ鬼の額にキスを

しました。

 「おとうさん、あの絵本よんで、おにの

こおにのこ」

 こ鬼はうとうとしながらいいました。「眠

れ、眠れ」鬼のおとうさんはやれやれという

顔をしながらつづきました。


 おそらに浮かぶは真っ赤ッか

 こ鬼「なにが、真っ赤ッか」

 とうさん「さあ、なんだろうね」


 月はかちかち歯をならし、

 こ鬼「なにをそんなに怖がった」

 とうさん「いや、寒かったのかもしれない

よ」


 こんこんわかでる、ちいさな泉

 ごほんごほんと、きつねがないた。

 こ鬼 「なにが、そんなに悲しかった」

 とうさん「いや、たぶん風邪をひかないように

しないといけないね」

 真っ赤なかおできつねがないた。

 こ鬼「やっぱり、きつねはないたんだ弱虫

だから。ぼくはなかないもの」

 とうさん「さあさあ」

 おにのこ、おにのこ、ねむレ、ねむレ

 おそらに浮かぶは真っ青ボタン

 「なにが青く浮かんだだろう。きっと」

 ちいさなおひさまてんてんついた

 まんまるてんで毬のよう「ちきゅうかも

しれない。青い青いちきゅう」

 ぼうでつついた。ちいさなねずみ
 
 こほん、こほんと、かぜをひいた

 「・・・」

 ねなさい、ねなさい

 お月のように

 「・・・」

 
 こ鬼はおとうさんにいつものように、たく

 さんしつもんをしながら、うとうととしてい

 きました。くらり、くらり、とおとうさんの

 顔がぼんやらしたりして、いつのまにか、お

とうさんの顔は輝く赤い月になっていました。

 そして、蒼く蒼くかがやく空の上にぼっか

りと、真っ赤な月が風船球のようにういてい

ました。おかあさんはにこにこしながらたん

ぽぽランプの火をふきけしました。そしてこ

鬼をおこさないように扉からそとにぱたんと

でていきました、ぱたぱたぱた、スリッ

パの音がとても遠くにきこえて、その音とと

もにとても真っ白いかがやく白い雲が波の飛

沫のようにこ鬼のまそらに広がっていました。

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-25 18:00

鬼と月と赤い砂漠9

鬼と月と赤い砂漠9

フグリのなみだとキャラバンのおはなし

二ば毬を

 朝はやく、鬼はフグリのいる野原にでかけ

ていきました。雲はあっさりしたもので、ホ

ウキではききった砂ほこりのようにつぶつぶ

の雲ひつじが空ではのんびりしています。

 春の弱くて、やさしいまんまるおひさまが

手をひろげてやさしくあかるいうたで野原を

つつみこんでいました。

 こ鬼はかけだしたいきもちをおさえて、お

とうさんとおかあさんがみていない、ほんの

朝はやくにいっこくもはやくフグリに会いた

かったのです。

 きっと、このふしぎなお話をきけばフグリ

はいつものばいのばいのばい喜んで、あのか

わいらしい笑顔でほほえんで、きっとぼくに

ついてきてくれるにちがいないし、おかあさ

んにも会えるにちがいないよ。

 こ鬼はそうおもうと、笑いたくなくても自

然に顔の筋肉がゆるんでにっこりとなって

しまうのでした。


 「フグリ、フグリ、きいておくれ」

 鬼はたくさんのムラサキイロのチイサナオ

オイヌのフグリからフグリをみつけだすと、

フグリをおこして、ゆめの話しをきかせまし

た。

 そして、フグリはそのお話をうんうんとう

なずいたり、興味ふかげに首をかしげたり、

かぜにあたまをふかれてみたりしたあとで、

そう。いつものとおり、こ鬼のはなしをひと

つののこらずみみずまで聞くてこういいまし

た。

 「こ鬼さん。こ鬼さん。行かないほうがい

いわ」フグリはそういうとブンブンとちぎれ

んばかりにくびをふりました。

 「行ってはだめよ」

 フグリにもわけがわかりませんでした。

 でもたしかに不安をかんじました。

 それともやきもちなのかもしれません。

 こ鬼が野原にもうこなくなるような気がし

たのかもしれません。

 でも、フグリのくちからはすこしずつこん

なことばがでてきました。

 
 「あなたは、この鬼の世界に満足していな

いの。

 やさしいおとうさんだって、おかあさんだ

っているじゃない。風だって、雨だってしの

げるおうちもあって、それに・・・

 自由にそこらじゅうをかけまわることだっ

てできる足だってあるし、冷たくておいしい

水だって、私たちみたいに神様にいただける

までまっていなくたっていいのよ。その手で

くみにいくことができるんだもの


 そんな、ぜいたくをいってはだめだわ」

 フグリにはこ鬼に意地悪なきもちはないつ

もりでした。

 でも、こ鬼にはいつもやさしくにこにこと

こ鬼のはなしをきいてくれるフグリが、この

ときとても意地悪にみえたのです。

 こ鬼ははりきっていいました。

 「でも。フグリにもみせてあげたかったよ。

ほんとうにふしぎでとてもきれいで、砂漠を

歩くらくだやにんげんのキャラバンたちは。

それにとてもぼくはかんげきしたんだよ。そ

してとても怖かったんだ。

 だって、この野原には」こ鬼はさきほどの

フグリのようにブンブンと大きくくびをふり

ました。「いや、土くれみみずだって、なが

れのひつじだって」そしてもういちど大きく

くびをふりました「鬼いちぞくぜんぶあわせ

たって、だあれも知らないよ。あんなふしぎ

できれいなところ。はじめて見るににんげんは、

図鑑でみたくらげのようで、たよりなくて、

そして繊細ににふえた」

 こ鬼はもうフグリの顔はみていませんでし

た。

 だってフグリといったら、こんな楽しい話

しをきかせてやっているのに、今にも泣きそ

うな顔をしているから。

 「ぼく、こんどおなじ夢をみて、またきり

ぎりすたちがぼくをさそったら、

 こんど行くよ。あの砂漠のむこうまで。

 ラクダにのってにんげんの子どもたちに会

いに行く。喜んでくれるはずだよ。こどもた

ちも。ぼくはそうおもう。

 だってね、ぼくたちは泣いたり笑ったり、

好きな子ができたり、けんかしたり、

 にんげんはぼくらよりずっとよわいいきも

のだってきいてるし、ぜぇんぶとはいわない

けれど、でもおなじなんだからさ」

 鬼の子ぱそれいじょう、フグリをみません

でした。フグリはしくしく泣き出していたか

らです。

 お空はすこし曇っていました。

 ほんとうに、今にも雨がふりだしそうなお

天気です。

「あらあら、きょうはおそらのひつじたち

も、もうとっくにかえっていってしまったわ。

あなたもおかえりなさいな。

 でも、砂漠のむこうにはぜったいいかない

で」

 フグリはそういいました。そしてこころの

なかで、なんかあなたにとってよくないこと

がおこりそうな気がするんですもの。といい

ました。きっとこ鬼は泣いてしまったわたし

を嫌なやつだと思っているにちがいなもの、

 「わかったよ。フグリ」

 フグリにはわからないよ。なんでもかんでも

神さままかせのこんなちいさな世界にすん

でいるんだから。でていってみたいなんてお

もったことないんだろ

 こ鬼はそうおもいましたが、なみだをこら

えているフグリのかおをみるとことばがでま

せんでした。

 「サヨナラ。フグリ、またくるよ」

 「でも、わたしはまんぞくしているわ」

 フグリはこ鬼のことばをこころからすっか

りきいてしまったように、そう答えたのでし

た。

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-24 14:07

鬼と月と赤い砂漠8

鬼と月と赤い砂漠8

二ば毬を

 白いような紫のような、もやのむこうにみ

えたのは、絵本でそんなはてのはてのしらな

い世界があるとしってから、土くれみみずの

ように、黄色いちょうのように、おそらをゆ

っくりとふみしめて歩くながれのひつじたち

のように、鬼が毎日のようにあこがれた、に

んげんの世界が、まるで砂漠にゆらゆらゆら

めく蜃気楼のようにゆれていました。

 「砂漠なの。ここが裁くだから。あれはに

んげんの砂漠なのかしら」

 らくだにのったキャラバンたちがゆっくり

と月の砂漠を列をひいて歩いています。

 白いボトルがらくだのからだの横でゆれて

いました。

 砂丘は美しいもようをえがきだしていて、

らくだたちはそれをふみしだいて、こ鬼より

とおくへとおくへと遠ざかっていくのです。

 月のひかりのあとをとおって、静かに、静か

にとおざかっていきました。

 キャラバンが遠のくと砂漠は月の影絵だけ

がしずかに砂によこたわっていました。

 こ鬼は「あっ」となにかをはなそうとした

ら、きりぎりすたちはこ鬼のかがやくような

まんまるい目をみて笑いました。

 「ねえ、きみさあ、あそこいくの。あそこ。

さっきのキャラバンがとおっていた道をとお

って、あそこにいこう。ぼくらもいっしょに

いくから。こんどは、あのむこうにいってみ

ようよ」

 きりぎりすの声はみりょくをもってこ鬼

のみみのあなまでとどきました。

 「はてのはて?」

 こ鬼はいつもおもっていた人間のせかいを

おもってつぶやきました。

 「そうはてのはて」

 きりぎりすたちはこんどはこ鬼をとりまい

て、まるで円のようにまるくこ鬼をとりかこ

んでいて叫ぶようにうたいました。

 
 いこう、いこうはてのはて、はてのさばく

はまっかっか。

 どちらでもかぜがふくし、

 なでるようにキャラバンの黒マントはそら

をとぶし。

 つれだっていけるなら、らくなこたないよ。

らくなこたないよ。


 鬼は少し怖くなって背筋をぶるっとふるえ

ました。

 そして、息をのんでこうこたえました。

「無理だよ。だっておとうさんや、おかあ

さんにしかられてしまうもの。とても無理だ

よ」
 
 フグリのちいさなよわよわしいようすがこ

鬼のあたまのなかにちらっとうかびました。

 フグリだって、こうおもったのかもしれな

い。
 
 こ鬼はもういちどおなじことをこんどは

おもいだしました。

 まったくおなじ朝。

 いつもとなにもかわりがありません。けれ

ど、なにもかもがまったくおなじようで、

 なにかがほんのすこしちがっている朝とい

うものもあるのです。

 鬼は目が覚めると、昨晩の夢のことをおも

いだしました。

 ふあうあうあう。そして、りょううでをいっ

ぱいにひろげておおあくびをしました。

 そして、すこし残念なことをしたなと思い

ました。

 こ鬼はきのうのあの白いもや(むらさきの

もや)の砂漠のことをはっきりとおぼえてい

ました。にんげんのキャラバンたちがものす

ごく大きな月にむかって、ゆっくりとらくだ

とともにけむっていたこと。その足跡。

 そして、ずっと憧れていたにんげんの世界

があって、あのむこうにはにんげんの子ども

たちがきっとたのしそうに遊んでいるに違い

がなかったから。

 こ鬼はそうおもうと、くやしくてくやしく

てしかたがありませんでした。

  

 ・・・あのとき、どうしてぼくはきりぎり

すたちといっしょににんげんの世界にいかな

かったのだろう。


 とてもふしぎにおもいました。だって起

きて見るとなんてこたない朝でした。いった

い自分はなにをあんなにびくびくしていたの

か、こ鬼はすっかりわすれてしまっていたの

です。

 「きみがのぞんだから」

 きりぎりすがそういっていたのが頭の奥に

ほんのかすかに霧がかかったようなかんじで

おぼえています。

 こ鬼はまた今日、同じ夢をみることができ

るといいな。そうのぞんだのです。

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-23 12:08

小説 鬼と月と赤い砂漠7

鬼と月と赤い砂漠7

二ば毬を



こ鬼、砂漠のキャラバンときりぎりす

「おやすみなさい。よい夢を」

 こ鬼は、おとうさんとおかあさんから真っ

赤なほっぺにキスをもらいました。いつもの

とおりです。こ鬼はキスをもらうとにっこり

としました。いつものあたりまえのことです

がやっぱりうれしくてうれしくてしかたがな

いのです。

 そう、おもうと、やっぱりフグリはきのど

くだ。ぼくは夜なんか、あんまり外にでては

いけないなんていわれてるけど、フグリはい

つもそとなんだ。

 雪の日も、雨の日も。

 そうかんがえると、こ鬼の目にはフグリが

ちいさなからだでお月さまのひかりのなかひ

とりぽっちで風にふかれているすがたがみえ

てきました。

 フグリのほかのちいさなお花たちとはおし

ゃべりしたことはありません。

 なぜ、ぼくとフグリだけはあんなふうにお

しゃべりできるんだろう。

 なんだか、そんなことを考えているとこ鬼

にはむつかしくなってきて眠れなくなりそう

です。

 野原になんかもういかなくていいや、なん

ておもったけれどやっぱりあしたいって

やろう。

 「おとうさんのキスはごつごつとしていた

いよ、よけいねむれなくなるよ」こ鬼はふか

ふかのベッドでぐっすりと眠りました。こ鬼

のおかあさんが、おふとんのすそをなおして

部屋をでていきました。「おやすみ。ぼうや」

 おやすみなさい。


 こ鬼はその日、とても不思議な夢をみまし

た。

 こ鬼はどこかにむかって歩いていました。

 白のようなむらさき色のようなもやもやが

あたりには、まるで空気のようにちらばってい

ます。

 白いもやの中ではなにやら黒いものがぴょ

んぴょんととてもたくさんはねまわっていました。

 「ここはどこだろう」

 こ鬼は不安になりました。だってこんな場

所はいちどだってみたことがありません。こ

鬼はなんだろう。なんだろうなんてかんがえ

るまもなく、頭がぽやんとしてきて、もやの

なかを歩きはじめました。

 しゅわわん、しゅわわん
 
 ぴょこたり、ぴょこたり

 黒いものは、どうやらきりぎりすのようで

す。それらはもやのなかからいっせいらばら

ばらとうかびあがりました。

「鬼さん、鬼さん。いいことおしえてあげ

る。とってもいいこと」

 きりぎりすはもやのなかをはねまわって、

そして、みんないっせいにぴたっととまった

のです。
 
 きりぎりすたちはみんなこ鬼のほうをみて

います。

 「いいことってなんだい。はやくおしえて

おくれよ」

 こ鬼はうたでもうたうように、きりぎりす

のいったことに軽くこたえました。きりぎり

すたちのこえはほんとうに合唱のようです。

 きりぎりすたちはいっせいに同じ方向をみ

ると、細長いとげのついた足をせいいっぱい

にのばしました。

 「ほら、あそこだよ。あそこだよ。のろま

のこ鬼。見てよ。見てよ。みてごらん」

 きりぎりすたちは、鬼したしげにちかづ

いては、こ鬼の肩や腕にとびのってきました。

 とけとげの足がちくちくとこ鬼のからだに

ささります。

 いたいよ。

 そういいたくても何もことばはでてきませ

ん。ただうたうように、

 「あそこって、どこだい、どこだい、おし

えておくれ」

 そんなことばがこ鬼の口からうたうように

とびだしました。

 そんなことをいうと、ちいさなこんぺいと

うのかけらのようなものが、星のかけらでし

ょうか、真っ黒な星が、ぱらぱらと雨のよう

におっこってきました。

 「あそこだよお。あの白いもやのなかまで

みてごらんよ。おおきな黒い目で。くものな

かまでみてごらんよ。そのおおきな黒い目で。

うふふ。雲のなかにはなにがみえる」

 「なにがみえる」

 「なにがみえるんだ」

 「さあ、なにがみえる」

 きりぎりすは、地のそこからひびくような

恐ろしい声でいいました。

 何千匹のきりぎりすが、まるでいっせい

に音楽を奏でるようにうたうのですから、そ

りゃとてもはくりょくがありました。

 鬼はすこし怖くなってきました。

 からだががたがたふるえだしましたが、そ

れよりもなにかとても気になるものが、その

雲のなかにはあるような気がして、目をまん

まるくしながら、手をつつのようにしました。

 そして、

 白いもやの遠く奥までのぞきこみました。

 
 「さあ、なにが見える。なにが見える」

 「つれてっちまえよ。このままさあ。こ鬼

がのぞんでるんで」

 「よわいこころだ」

 きりぎりす一匹は鬼の手のつつのなかには

いりこむと、けらけらと手をたたきなが

らわらいころげました。

 そして、こばかにしたように、鬼といっし

ょのように、手をつつにして、もやの向うを

のぞきこみました。

 こ鬼ははっとして、目をかがやかせました。

「みえるよ。みえるよ。あれが・・・にん

げんのすんでいるせかいなの?」 

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-22 12:05

鬼と月と赤い砂漠6

鬼と月と赤い砂漠6

二ば毬を

 こ鬼はそういうとフグリにピースをしなが

らきらきらとした顔で鼻歌をうたいだしま

した。

 きいっとできる。きいっとできる。

 かみさまだあってしらないんだ。

 フグリはすこし困った顔をしています。

 そして、ほんとうにざんねんそうにいいま

した。

 そして、すこしもじもじしながらいいまし

た。
 
 こんなことをいったらこ鬼に嫌われないか

しら。もう、この野原にきてくれないのじゃ

ないのかしら。でも、フグリはじぶんのちい

さなすがたを細い目でぐるりとみわたすとや

っぱりこうこたえたのでした。

「・・・無理よ。ざんねんだけれど。あた

したちはとてもここからお外へはいけないの

よ。そうきまっているのよ。だれかがそうき

めたってわけじゃないのかもしれないけれど。

(ここからはなれたらきっと死んでしまうわ)

 あたしたちはあなたみたいに、自由じゃな

いもの。わたしの足はしっかりと根っこをは

っていて、うごくことはできないし。

 あなたのように駆け回れる足というものが

ないから、だから、ずっとずっと神様が生か

しておいてくださるまで、ここにいなくては

ならないの。そういうきがする」

 フグリはきっぱりと言いました。こ鬼の目

にはフグリがとてもよわよわしくうつりまし

た。

 フグリはなんて弱虫なんだろう。

 ちいさいお花というのはこんなに弱

いものなんだろうか。

 いいや、ちがう、フグリはとくべつ弱いん

だ。
 
 「だいじょうぶだよ。フグリ。ぼくが君の

あしごとはこんであげるから。いかないのな

ら、フグリは弱虫だ」

 こ鬼はすくっとたちあがると、ひざについ

た土くれをはらって、ちらっとフグリをみま

した。

 こ鬼もほんとうはすこしこわいのです。

 ひとりでなにかあたらしいことをはじめた

りするということは。だからこそ、なんでも

はなせるフグリについてきてほしかったので

した。

 「にんげんのこどもたちにはあってみたい

んだけれど、おかあさんにもあってみたいん

だけれど、きっと、あなたみたいにげんきが

良くてかわいらしいんでしょうね」

 フグリはざんねんそうになんどもくびをふ

ると、じっと黙り込んでもとのチイサナオオ

イヌのフグリになってしまいました。

 こうなってしまうと、こ鬼はひとりぽっち。

 フグリになにをはなしかけても、フグリは

ただのオオイヌノフグリ、ほかのお花たちと

おなじように、しずかにかぜにゆれるだけで

す。

 「もう、いいよ。よわむしフグリ」
 
 深い深い青にそまっていく空は本当に海の

そこのようで、きっと海を知らないこ鬼やフ

グリでも海というものをかんじたかもしれま

せん。もちろん空想ですが。

 たんぽぽのわたげがそんなに青く深くそま

っていく空にいっせいにふかれてとびあがり

ました。

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-21 13:19

小説 鬼と月と赤い5

鬼と月と赤い砂漠5

二ば毬を

 「おとうさんは、あえないっていったんだ

なんでも鬼は、にんげんにとても嫌われてい

るから、だから、ぼくらはこうやって、ひっ

そり人間にみつからないようにくらしている

んだって。

 ぼくたちのすんでいる鬼の里はぜったいに

にんげんにはみえないんだって。

 とても、とても、おとなりきんじょみたい

にちかいちころにあるのに。ぜったい、ぜっ

たいにぼくらからはにんげんがみえないし、

にんげんからもぼくらはみえないんだ。

 でも、ぼくらは眠る前におとうさんに絵本を

読んでもらってしっているんだよ。

 にんげんの子どもたちもぼくらといっしょ

で、夜眠る前に歯をみがいたり、

 絵本をよんでもらったり

 泣いたり、笑ったり

 けんかしたり

 好きなこができたり

 ないしょばなししたりさ。

 だから、ぼく、思うんだ。

 きっとにんげんの子どもたちともこうやっ

てフグリとぼくがぜんぜんちがうのにおはな

しができるように、けんかもしないのとおな

じように、おしゃべりしたり、いっしょに遊

んだり、好きなこのおはなしができたりする

んじゃないかってさ」こ鬼はうきうきとしな

がらフグリにいいました。

 「ねえ。そうおもわないフグリ。こんなの

つまんないよ。知っていることがあって、し

たいことがあるのにじいっとしてるだなんて

さ。土くれのみみずや、おそらの羊はあんな

にはてのはてまでいっているかもしれないの

にさ。
 
 ぼくらといえば、こんなちいさな里でじい

っと空をながめたりしてるんだもの。みてみ

たいなあ。ああ見てみたい」

 こ鬼はまっかにもえる長いまつげをばさば

さととじたりひらいたりしました。かあああ

あ。遠くでカラスがないています。ちぇっ、

もうそんなじかんなのか。もうちょっと話し

ていたいのになあ。

 「あのね。わたしそのにんげんのすむ

ばしょをしっているかもしれない。わたしのおか

あさんはきっとわたしのいるこの「鬼の里」

より、ずっとずっと遠くて近いにんげんの野

原にいるの。ただ、そうかんじるだけかなんだ

けど。でも、きっとにんげんのこどもたちも

わたしたちみたいなちいさな花を愛して、き

っととてもかわいらしいんだわ」

 こ鬼はそれを聞くと目をごしごしとこすり

ました。

「それだったら。フグリのおかあさんにも

会いにいこうよ。フグリのおかあさんは人間

の野原にいるんだ。ずっとあえないなんてさ

みしいよ。

 そのあいだにこっそり、ぼくといっしょにに

んげんのこどもたちに会いにいってみようよ。

 だれにもばれなければだいじょうぶさ。

 フグリといっしょだったら、きっと勇気が

でて、いっぱいお友達もできるような気がす

る」

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-20 18:35

鬼と月と赤い砂漠4

鬼と月と赤い砂漠4

二ば毬を

「まいにち、まいにちおはなしを聞いてく

れるフグリだけにはうちあけれるけれど」

 これはとてもじゅうだいだぞ。

 だって、フグリはとてもちいさなせかいの

なかでいきているんだから。このはなしをき

いたらきっとおどろくはずだ。

 こ鬼はそうおうと、ろうそくの火がふき

けされないぐらいにちいさな小声ではなしは

じめました。

 野原はあいかわらず、黄色いちょうや、魚

のこ骨のようにほそいトンボが花のまわりで

深呼吸をしています。

 「なに、どんなおはなしなの」

 フグリはこ鬼の語るおはなしならどんなも

のでもだいすきでした。そして、やっぱりに

こにこしながらいつものとおりこ鬼のお話に

耳をゆっくりすましたのです。



 こ鬼はひじを土くれのうえにのせて、フグ

リと視線をあわせました。いつもフグリにな

いしょのはなしをするときはこ鬼はフグリよ

りもとてもおおきな目をまんまるにしながら、

フグリのかおにこ鬼のかおをちかづけておは

なしするのです。

 (いい、おはなしをするときは、目と目を

あわせて、じぶんとあいてのきょりがちかづ

くように、こころがちかづくように、あいて

の背たけにじぶんをあわせなければだめよ。

そうすれば、相手のこころとじぶんのこころ

が深い海のようにいっしょにしずんでいくし

ゅんかんがあるから。そしたら、ゆっくりと

深呼吸をしてはなしをはじめるの)
 
 こ鬼はこ鬼のおかあさんにそういわれてき

ました。

 だから、そうするのです。

 すると、フグリのこころからのことばがと

ても美しい海のなかのおんがくのようにこ鬼

のこころにひびくのでした。

 「ないしょなんだけどね。フグリ。にんげ

んって知ってる?」

 フグリはこ鬼の目をきょとんした目でみ

つめました。

 「知っているわ」

 「なんだよ。つまんんないの。フグリはてっ

きり知らないとおもっていた」

 「・・・ええ、みたことはないけれど、な

ぜか知っているってわかるの、むねのあたり

でなんかにんげんってきくと、しっているっ

てかんじで。きっとわたしのおかあさんやお

ばあちゃんや、もっともっととおくのしんせ

きたちが、そのにんげんってのをしってるの

かもしれないわ。ほそいほそいみえないいと

でわたしたちみんなつながっているから」

 「へぇんなの、へぇんなの。みたこともな

いのにしっているなんて。フグリはうそつき

だ」

 こ鬼はじぶんだけしかしらないとおもって

いたことをフグリがしっているというんで、

少しくちをすぼめました。

 「まあいいや。ないしょなんだけどね。ぼ

くにんげんが大好きなんだ。もちろん、あっ

たことや、みたことなんかもないんだけれど」

 「じゃあ、どうやってしったの」
 
 フグリは目を輝かせていいました。

 「絵本さ。おとうさんに絵本をよんでもら

ったときに、にんげんのこどもたちがいっぱ

いいっぱいでてきてさ。ぼくはおともだちに

なれたらなあっておもったんだ。

 それで、おとうさんに聞いたんだ。にんげ

んのこどもたちにはどうやって会えるのって」

 「そう、そしたらおとうさんは何ていった

の」
 
 こ鬼はでんぐり返しをくるくるとお花はた

けでやってみせると、近くにあったこ石をつ

かんで、大きな石に

 「知らない」

 とかきました。

 「知らないんだ」

 フグリはこ鬼がすこしがっかりしたようす

なのでじっとだまっていました。

 野原にひときわおおきな雲のかげがおちて、

こ鬼とフグリのいるばしょを暗くてらしました。

つづく
 
 

 
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by junko-oo1 | 2006-12-19 11:46

小説 鬼と月と赤い砂漠3

鬼と月と赤い砂漠3「鬼、フグリひみつのおはなし」

二ば毬を

 鬼は野原ですやすやと眠っていました。

 鬼のそばにはちいさな野の花がたくさんほ

ほえんでいるように優しく、ちいさくさいて

いました。

 鬼はあくびをしながらぼんやりとすきとお

るようにはれあがった空をながめていました。

ゆっくりと、ゆっくりと、羊の群れがうすく

こおったような空をぱりぱりとたちどまった

り、またあるきだしたりながら、どんどこ

歩いていきました。

 ふうわりとした風が鬼の真っ赤な顔をやさ

しくなでて、黄色いろのちょうがひらひらと

のはらじゅうを泳いでいました。

 ふうーうう

 ふううーー
 
 はああーーあ

 大きなためいきをついているのはこ鬼です。

 「ああたいくつだ。ぼくはどうして鬼なん

かに生れちゃったのかなあ」鬼はちいさな手

で土もこをさわると、みみずがちょろっとで

てきました。「ひゃああ、みみずだ、なっが

いなあ」こ鬼はけらけらと笑いました。

 そして、またぼんやりとかんがえこむので

す。「どうして、ぼくは鬼なんかに生れちゃ

ったんだろう。ちゃうちょでも、みみずでも

なくどうして鬼なんかに生れちゃったんたろ

う」

 そうしたら、鬼のしたに広がるちいさなお

花がこういいました。ムラサキイロのチイサ

ナオオイヌノフグリです。

 「あらあら、なんでそんなことをいうのか

しら。あなたはとてもかっこいいもの。それ

にあなたがまいにちこの野原にきてくれるん

だもの。たいくつだなんてどうしてそんなこ

とをいうの」

 このちいさなムラサキイロのチイサナオオ

イヌノフグリはそういうとつるんとしたほっ

ぺたをりんごのようにまっかにしました。

 「ああ、りんごだったらよかった。だって

はずかしんですもの」

 鬼はフグリに手をおおきくいっぱいひろげ

てみせました。

 「そらっておおきいんだよ。いちどにはて

のはてまでみたことある鬼なんてきっといな

いよ。でも、あの雲の羊たちはひょっとした

らあのそらのはてのはてまでいって、ぼくた

ちのみたことのないものをみてるかもしれな

いんだよ」

 鬼はひとついきをおいてからいいました。

 「それにこんな、つちくれのなかのみみず

だってそうだよ。つちのなかのはてのはてま

でもぐったことがあるかもしれない。ぼくた

ちがみたことのないものをしっているかも

しれない。そんな鬼なんているかい」

 鬼はつまらなそうにそういうと、みみずを

青い空に土くれといっしょになげました。

 「土くれのなかに生きるおまえたちだからと

んでけー。空のはてのはてまで」

 そしてつまらなそうにまたためいきをつい

てねそべりました。

 フグリはいいました。

 「わたしだって、そうおもうときはある。

だれだって、あこがれるわよ。とうぜんだわ。

わたしだってあなたにあこがれるもの。

 あなたには帰れるおうちがあって、りっぱ

な強いおとうさんややさしいおかあさんがいる

じゃないの」

 フグリはにこにこしながらいいました。

 フグリはじいっとこ鬼をみつめています。

 にこにこ、にこにこ。

 こ鬼はふぅーと何度めかになるお花たちが

吹き飛んでしまうような大きなためいきをつ

いていいました。なんてせけんしらずなんだ

ろう。フグリは。そして心のなかでそうおも

いました。

 なぜならこ鬼はとおい国(世界)のあるひ

みつをしっていたのです。

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by junko-oo1 | 2006-12-18 13:29