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鬼と月と赤い砂漠8

鬼と月と赤い砂漠8

二ば毬を

 白いような紫のような、もやのむこうにみ

えたのは、絵本でそんなはてのはてのしらな

い世界があるとしってから、土くれみみずの

ように、黄色いちょうのように、おそらをゆ

っくりとふみしめて歩くながれのひつじたち

のように、鬼が毎日のようにあこがれた、に

んげんの世界が、まるで砂漠にゆらゆらゆら

めく蜃気楼のようにゆれていました。

 「砂漠なの。ここが裁くだから。あれはに

んげんの砂漠なのかしら」

 らくだにのったキャラバンたちがゆっくり

と月の砂漠を列をひいて歩いています。

 白いボトルがらくだのからだの横でゆれて

いました。

 砂丘は美しいもようをえがきだしていて、

らくだたちはそれをふみしだいて、こ鬼より

とおくへとおくへと遠ざかっていくのです。

 月のひかりのあとをとおって、静かに、静か

にとおざかっていきました。

 キャラバンが遠のくと砂漠は月の影絵だけ

がしずかに砂によこたわっていました。

 こ鬼は「あっ」となにかをはなそうとした

ら、きりぎりすたちはこ鬼のかがやくような

まんまるい目をみて笑いました。

 「ねえ、きみさあ、あそこいくの。あそこ。

さっきのキャラバンがとおっていた道をとお

って、あそこにいこう。ぼくらもいっしょに

いくから。こんどは、あのむこうにいってみ

ようよ」

 きりぎりすの声はみりょくをもってこ鬼

のみみのあなまでとどきました。

 「はてのはて?」

 こ鬼はいつもおもっていた人間のせかいを

おもってつぶやきました。

 「そうはてのはて」

 きりぎりすたちはこんどはこ鬼をとりまい

て、まるで円のようにまるくこ鬼をとりかこ

んでいて叫ぶようにうたいました。

 
 いこう、いこうはてのはて、はてのさばく

はまっかっか。

 どちらでもかぜがふくし、

 なでるようにキャラバンの黒マントはそら

をとぶし。

 つれだっていけるなら、らくなこたないよ。

らくなこたないよ。


 鬼は少し怖くなって背筋をぶるっとふるえ

ました。

 そして、息をのんでこうこたえました。

「無理だよ。だっておとうさんや、おかあ

さんにしかられてしまうもの。とても無理だ

よ」
 
 フグリのちいさなよわよわしいようすがこ

鬼のあたまのなかにちらっとうかびました。

 フグリだって、こうおもったのかもしれな

い。
 
 こ鬼はもういちどおなじことをこんどは

おもいだしました。

 まったくおなじ朝。

 いつもとなにもかわりがありません。けれ

ど、なにもかもがまったくおなじようで、

 なにかがほんのすこしちがっている朝とい

うものもあるのです。

 鬼は目が覚めると、昨晩の夢のことをおも

いだしました。

 ふあうあうあう。そして、りょううでをいっ

ぱいにひろげておおあくびをしました。

 そして、すこし残念なことをしたなと思い

ました。

 こ鬼はきのうのあの白いもや(むらさきの

もや)の砂漠のことをはっきりとおぼえてい

ました。にんげんのキャラバンたちがものす

ごく大きな月にむかって、ゆっくりとらくだ

とともにけむっていたこと。その足跡。

 そして、ずっと憧れていたにんげんの世界

があって、あのむこうにはにんげんの子ども

たちがきっとたのしそうに遊んでいるに違い

がなかったから。

 こ鬼はそうおもうと、くやしくてくやしく

てしかたがありませんでした。

  

 ・・・あのとき、どうしてぼくはきりぎり

すたちといっしょににんげんの世界にいかな

かったのだろう。


 とてもふしぎにおもいました。だって起

きて見るとなんてこたない朝でした。いった

い自分はなにをあんなにびくびくしていたの

か、こ鬼はすっかりわすれてしまっていたの

です。

 「きみがのぞんだから」

 きりぎりすがそういっていたのが頭の奥に

ほんのかすかに霧がかかったようなかんじで

おぼえています。

 こ鬼はまた今日、同じ夢をみることができ

るといいな。そうのぞんだのです。

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-23 12:08

鬼と月と赤い砂漠

鬼と月と赤い砂漠
二ば毬を

きりぎりす、どくのはなし

 黒いカーテンが、まるでたくさんのこうも

りのはねのように重なりあっています。

 月の光が雲のすきまからかおをのぞかしまし

た。そして目をぱちくりさせながら、口をす

ぼめてひゅうとくちぶえをふくと、シルクハ

ットにタキシードを着て、ちょうねくたいを

つけたきりぎりすがやってきました。

 黒いこじゃれた車にのっています。

「へい」
 
 とんがったくちょうでそういいました。

 きりぎりすは細長い顔にはとても似合わな

い度の強いべっこうの眼鏡をかけています。


 カーテンのむこうのお客はいっせいに笑い

ました。どどっ。どどっ。どどっ。

 まるでつちがくずれだしたような、大笑い

です。

 きりぎりすは、そんなお客のまえにでても

すずしいかおをして、上品にシルクハットを

とって一礼しました。

 次に、きりぎりすは雲のうえであぐらをか

いてそのようすをみていた月にぱちんとめく

ばせをしました。

 月は、やれやれと顔をちょいとひねって、

きりぎりすにぎらぎらとしたスポットライト

をあてました。

 そして、すずしげな顔をしていた、きりぎ

りすはようやく満足げににっこり笑いました。

 「さてさて、みなさま、こんにちは。わた

 しが司会のきりぎりす。どうぞよろしく

 おねがいします」

 きりぎりすはりゅうちょうにそういうと、

シルクハットをもういちどふかくかぶりなお

しました。そうして、ごほんといきをつくと、

こんどはかんきゃくぜんたいに目をやりまし

た。すると、どどっ。どどっ。と笑いつづけ

ていたかんきゃくもしいんとしずかにしてい

ます。

 きりぎりすはおもおもしく司会をつづけました。

 「わたしが何者であるか。いまはひみつ。

夢の扉の門番とでもいっておきましょう。さ

てさて、ここに一冊の絵本があります。

題名は「鬼と月と赤い砂漠」
 
 なるほど、夢のおはなし。

 ああ、夢というのはほんとうにはかない

ですなあ。
 
 まるでこの月の光のように、夜の間だけ、

お日様からもらった、ほんのおこぼれのよう

な光をもらったりするもの」

 「すいどうのじゃぐちのようにちょろちょ

 ろと」
  
 しいんとしたなかで、かんきゃくのひとり

がぽつりといいました。

つづく
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by junko-oo1 | 2006-12-16 15:52