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鬼と月と赤い砂漠9

鬼と月と赤い砂漠9

フグリのなみだとキャラバンのおはなし

二ば毬を

 朝はやく、鬼はフグリのいる野原にでかけ

ていきました。雲はあっさりしたもので、ホ

ウキではききった砂ほこりのようにつぶつぶ

の雲ひつじが空ではのんびりしています。

 春の弱くて、やさしいまんまるおひさまが

手をひろげてやさしくあかるいうたで野原を

つつみこんでいました。

 こ鬼はかけだしたいきもちをおさえて、お

とうさんとおかあさんがみていない、ほんの

朝はやくにいっこくもはやくフグリに会いた

かったのです。

 きっと、このふしぎなお話をきけばフグリ

はいつものばいのばいのばい喜んで、あのか

わいらしい笑顔でほほえんで、きっとぼくに

ついてきてくれるにちがいないし、おかあさ

んにも会えるにちがいないよ。

 こ鬼はそうおもうと、笑いたくなくても自

然に顔の筋肉がゆるんでにっこりとなって

しまうのでした。


 「フグリ、フグリ、きいておくれ」

 鬼はたくさんのムラサキイロのチイサナオ

オイヌのフグリからフグリをみつけだすと、

フグリをおこして、ゆめの話しをきかせまし

た。

 そして、フグリはそのお話をうんうんとう

なずいたり、興味ふかげに首をかしげたり、

かぜにあたまをふかれてみたりしたあとで、

そう。いつものとおり、こ鬼のはなしをひと

つののこらずみみずまで聞くてこういいまし

た。

 「こ鬼さん。こ鬼さん。行かないほうがい

いわ」フグリはそういうとブンブンとちぎれ

んばかりにくびをふりました。

 「行ってはだめよ」

 フグリにもわけがわかりませんでした。

 でもたしかに不安をかんじました。

 それともやきもちなのかもしれません。

 こ鬼が野原にもうこなくなるような気がし

たのかもしれません。

 でも、フグリのくちからはすこしずつこん

なことばがでてきました。

 
 「あなたは、この鬼の世界に満足していな

いの。

 やさしいおとうさんだって、おかあさんだ

っているじゃない。風だって、雨だってしの

げるおうちもあって、それに・・・

 自由にそこらじゅうをかけまわることだっ

てできる足だってあるし、冷たくておいしい

水だって、私たちみたいに神様にいただける

までまっていなくたっていいのよ。その手で

くみにいくことができるんだもの


 そんな、ぜいたくをいってはだめだわ」

 フグリにはこ鬼に意地悪なきもちはないつ

もりでした。

 でも、こ鬼にはいつもやさしくにこにこと

こ鬼のはなしをきいてくれるフグリが、この

ときとても意地悪にみえたのです。

 こ鬼ははりきっていいました。

 「でも。フグリにもみせてあげたかったよ。

ほんとうにふしぎでとてもきれいで、砂漠を

歩くらくだやにんげんのキャラバンたちは。

それにとてもぼくはかんげきしたんだよ。そ

してとても怖かったんだ。

 だって、この野原には」こ鬼はさきほどの

フグリのようにブンブンと大きくくびをふり

ました。「いや、土くれみみずだって、なが

れのひつじだって」そしてもういちど大きく

くびをふりました「鬼いちぞくぜんぶあわせ

たって、だあれも知らないよ。あんなふしぎ

できれいなところ。はじめて見るににんげんは、

図鑑でみたくらげのようで、たよりなくて、

そして繊細ににふえた」

 こ鬼はもうフグリの顔はみていませんでし

た。

 だってフグリといったら、こんな楽しい話

しをきかせてやっているのに、今にも泣きそ

うな顔をしているから。

 「ぼく、こんどおなじ夢をみて、またきり

ぎりすたちがぼくをさそったら、

 こんど行くよ。あの砂漠のむこうまで。

 ラクダにのってにんげんの子どもたちに会

いに行く。喜んでくれるはずだよ。こどもた

ちも。ぼくはそうおもう。

 だってね、ぼくたちは泣いたり笑ったり、

好きな子ができたり、けんかしたり、

 にんげんはぼくらよりずっとよわいいきも

のだってきいてるし、ぜぇんぶとはいわない

けれど、でもおなじなんだからさ」

 鬼の子ぱそれいじょう、フグリをみません

でした。フグリはしくしく泣き出していたか

らです。

 お空はすこし曇っていました。

 ほんとうに、今にも雨がふりだしそうなお

天気です。

「あらあら、きょうはおそらのひつじたち

も、もうとっくにかえっていってしまったわ。

あなたもおかえりなさいな。

 でも、砂漠のむこうにはぜったいいかない

で」

 フグリはそういいました。そしてこころの

なかで、なんかあなたにとってよくないこと

がおこりそうな気がするんですもの。といい

ました。きっとこ鬼は泣いてしまったわたし

を嫌なやつだと思っているにちがいなもの、

 「わかったよ。フグリ」

 フグリにはわからないよ。なんでもかんでも

神さままかせのこんなちいさな世界にすん

でいるんだから。でていってみたいなんてお

もったことないんだろ

 こ鬼はそうおもいましたが、なみだをこら

えているフグリのかおをみるとことばがでま

せんでした。

 「サヨナラ。フグリ、またくるよ」

 「でも、わたしはまんぞくしているわ」

 フグリはこ鬼のことばをこころからすっか

りきいてしまったように、そう答えたのでし

た。

つづく
by junko-oo1 | 2006-12-24 14:07


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